能楽の舞台には、さまざまなところに紐(ひも)が使われている。装束の胸元や袖を飾る紐、刀もよく見ると紐がついている。ちょっと見えづらいが重要な道具である面も紐がなければ、つけることができない。それらの紐は、色や太さ、技法などに細かな決まりがあるため、専門の職人によって作られている。これが実に緻密なお仕事で、小さな紐にこんなに深い世界が広がっているのかと驚かされる。今回は、紐や房(ふさ)を製作している柏屋の江口裕之さんに話をうかがった。 1. 手作業で作られた紐 糸から作られる紐や房が専門 柏屋の仕事場は、東京都東久留米市の静かな住宅街にある。小売りはしていないため店舗はなく、裕之さんご一家が暮らす住宅のなかの日当たりのよい和室が仕事場にあてられている。外からは鳥の鳴き声が聞こえる、のどかな環境。ここで妻の惠さんと二人で仕事をしている。 2. 柏屋の江口裕之さん 柏屋は江戸時代から続く紐の専門
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