現代日本において「冷静であること」は至上の価値と見なされ、成熟した人間の最低条件だとされがちだ。パニックに陥ることは忌むべき幼稚な行為だと断罪される。とくに3.11の震災以降は、その傾向が強くなったと感じる。短絡的な恐怖に取り憑かれるあまりパニックに陥り、放射能汚染のリスクを過大評価する人は、「放射脳」と呼ばれて蔑みと嘲笑になる。それが今の日本だ。 冷静であるほどいいし、みんなが「安全だ」と言っているものに対しては、心をひとつにして安全だと信じるのが成熟した判断だ──。今の日本では、このような価値観がマジョリティの支持を得ている。 ところが、である。 震災当時、釜石市では小中学生の生存率が奇跡的に高かった。その理由は、津波のときは「てんでんこ」に逃げろという教えがあったからだそうだ。「てんでんこ」とは、「てんでばらばらに」とか、「各自の判断で」といった意味だという。周囲の反応をうかがって冷