創作 外伝:其の壱 モヨコは六畳間で一朗に添い寝をしていた。一朗は幼稚園の遠足で疲れていたようで、夕食後、倒れるように眠ってしまった。モヨコは仰向けに寝転び、開いた襖から居間の天井の黒い点を見ている。その点は動いてるように見えて、ちっともそこから移動しない。虫なのか、ゴミなのか。気になって身を起こした瞬間、ベランダから冷たい突風が吹き込んだ。黒い点に見えた、クモの糸に絡んだ埃の玉が激しく震え、同時にサイドボードの上の写真立てが倒れた。モヨコは立ち上がり、倒れた写真を手に取る。二年前、海に行った時に家族で撮った写真。この直後、新しく赴任した直属の上司の付き合いで、モヨコの夫はキャバクラに通い始めたのだった。その頃から夫婦の営みも疎かになった。愛おしいような、憎らしいような気持ちでモヨコは二年前の夫の無邪気な笑顔を見つめていると、玄関のドアがトントントン、とリズミカルにノックされた。モヨコは咄