脳科学者のジル・ボルト・テイラーは、37歳のときに脳卒中を起こした。自分の脳がひとつ、またひとつと機能を止めていく様子を、彼女は克明に覚えていた。脳科学者としての豊富な知識と語彙、そして分析力によって、彼女は意識の牙城が崩れ落ちていくさまを言葉によってまとめあげた。(※1) 脳の「言葉を司つかさどる部位」が機能を止めたとき、彼女の頭のなかから一切の独り言が消えた。そして恐怖が消えた。まさに死ぬかもしれないその瞬間に、彼女は世界との一体感、幸福感を感じていた。 いつも頭の中が独り言で満ちている僕にとって、「言葉が止まった」世界の話は、興味をひかれずにはいられなかった。 彼女はニルヴァーナが誰でも経験しうるものであることを、科学者らしく脳の仕組みに基づいて、自然科学を信奉する我々にも納得できる切り口で語ってくれる。もっと日常に近い悩みに寄り添う話も魅力的だった。特に、彼女のいう「90秒ルール」