昭和41年発行の本だ。六十代半ばを過ぎた私には、昭和40年代はそれほど遠い時代のような気がしないのだが、半世紀前のことであり、確かに本作を読んでいると、描かれている人や社会の雰囲気が、もうすでに身の回りにすっかりなくなってしまっていることに気づかされる。 「新潮」「小説現代」などに発表された十三の短編が収められていて、一番古いものは昭和36年、最も新しいものは昭和41年1月号掲載の作品だ。その時期は、東京オリンピックをはさんだ、おそらく日本が非常な勢いをもって経済成長をしていた頃に当たるのだろうが、どの作品も静かで穏やかで落ち着いているという印象を受ける。ことに女性たちの、強さを秘めながら控えめでしとやかなありようにとても魅力を感じた。 何年か前に同じ著者の『一個 秋その他』という作品を読んだことがあって、今回のなかに、その時に読んだものが三篇入っていた。近頃は推理小説ですらきれいに忘れて