後ろに……といいかけて、小笠原慎之介は言い直した。 9回表、起死回生となる決勝の本塁打を振り返った時のことである。 「三振して帰ってくるわってベンチで言ってて、思い切り振っていこうって気持ちで打席に入りました。打球が、結構、深いところだったんで、行ってくれって思ってましたけど、最初は(ホームランだと)分からなかったです。うれしくて、ガッツポーズが出ちゃいました」 初めて小笠原が自身の殻を破った瞬間ではなかったか。 「後ろにつなぐ」ではなく「思い切り振ってくる」。そう言い直したところに小笠原のちょっとした心の移り変わりを感じずにはいられなかった。 この夏の小笠原の一挙手一投足を見ながら、気になっていたことがあった。それは、小笠原がどこか自分自身の中にリミッターを取り付けてピッチングしているように見えたからだ。「欲を持ってはいけない」という。 「試合では欲を持たずに戦う」こと――この方針こそが