日本で一番愛された野球選手と言えば長嶋茂雄をおいてほかにはないでしょう。通産2471安打、通算打率3割5厘、444ホームランを始め数々の記録を持っています。しかし、単に記録だけからいえば、通算868本のホームランを打った王貞治、3回も3冠王を獲得した落合博満には及びません。 それにも拘わらずヒーロー度においては王も落合も長嶋には及びません。それは長嶋の派手なプレイスタイルもさることながら、ここぞという好機にめっぽう強く、人々の記憶に名場面を幾つも深く刻み込んだからです。 昭和34年6月25日、後楽園球場で行われた巨人対阪神戦は日本プロ野球史上初の天覧試合でした。この試合は9回裏まで4対4の同点という、天覧試合にふさわしい好試合で。このまま、延長戦になった場合、天皇、皇后、両殿下には途中退席してお帰りになっていただくかどうか関係者がやきもきしていました。そんな周囲の心配を吹き飛ばしたのが長嶋