遠い記憶 私の実家は吹けば飛ぶような家だったので、台風がくるとトタン屋根に打ちつける雨音が響き、雨戸はガタガタ揺れ、家はミシミシと鳴った。 それでも幼い私は怖くなかった。 ここにいれば大丈夫、と思っていた。 やがて、親はスーパーマンでもなんでもなくて普通の人間なんだと気づいた。 その頃から、台風でガタガタ言う家をすごく怖いと感じるようになった気がする。 怖くなかったのは、たぶん自分が無知だったから。 そして、親が絶対的に強い存在で、自分をどこまでも守ってくれると信じていたから。 なんの根拠もない。 ただ信じてただけ。 自分を100%守ってくれる存在などないのだということに気づいて、もう何十年が経つけど、あの頃の守られているという感覚を、最近になって思い出すようになった。 自分の枕を抱えて父や母の寝床に潜り込んだ時の安心感は、今でも鮮明に甦る。 いくら欲しくても、もう絶対に手に入れられない感