自分の関わるこの仕事は誰かを笑顔にできているだろうか。 その日も雨が降っていた。桜丘とは名ばかりの、すでに散ってしまった並木の脇を抜け、足早にマンションの一室へと向かう。そこは就活を数ヶ月後に控え、少しでも武器になればと知り合いづてに紹介してもらった会社だった。 「スタートアップとは、崖の上からから飛び降りながら、飛行機をつくるようなものだ」とはよく言ったもので、少しでも気を抜けば、仲間もろとも大海原に放り出される。いつ資金がショートするかわからない、創業間もないスタートアップだった。 目の前のお客さんよりも、会社の売上が優先される。そんな場面に何度も遭遇した。仕方がなかった。「誰も悪くない、だってそうしないと自分たちが死んでしまうのだから。」そう自分に言い聞かせて、朝から終電近くまで毎日懸命に働いた。一緒に働く人たちは好きだった。でもどうしても割り切れなかった。 ある日、僕は仕事をやめた