「ホスピタリティ」という言葉はやっかいだ。“おもてなしの心”とでも訳せばいいだろうか。接客業の心得を説く本には、必ずといっていいくらい「ホスピタリティ」が登場する。だが言うは易し、行なうは難しである。なぜなら「ホスピタリティ」はマニュアル化されてしまった途端、その効力を失うからだ。 人によって「心地いい」と感じる接客は、千差万別。あれこれ話しかけられるのが好きな人もいれば、放っておいてくれるほうがありがたいという人もいる。相手のかゆいところをさりげなく察知して、気配りする。昨今の美容院じゃないが、「かゆいところはないですか?」なんてやたらに聞いてはいけないのだ。そこで求められているのは、並々ならぬ洞察力である。 本書は、当の「ホスピタリティ」が頻出する本である。 ここ数年、老舗旅館の倒産や外資による買収などのニュースが後を絶たない。本書によると、「現在、日本で営業している旅館の9割以上が慢