仕事をしている人の手に惹かれるようになったのはいつ頃からか考えてみたのだけど、おそらく国鉄時代の駅員さんがハサミを器用に操り、硬い切符を次々にパチンパチンと切っていた時のような気がする。 母が東京へ買い物へ行くとき、私も度々連れて行ってもらった。母が切符を買っている横で私はいつも改札口にいる駅員さんをボヤッと眺めていた。やや暇そうな面持ちで手にしたハサミをカチカチと動かしていた駅員さんは私が切符を差し出すと目線を下に向け、持っていたハサミでパチンと小気味よい音を立てながら切ってくれたのだった。長方形の硬い切符にできたハサミのあとは、触るとでこぼこしていて気持ちが良かった。ずっと触っていたかったけれど、切符を手で持っているとなくしまいそうだったので、私はバッグに切符をしまった。電車に揺られ、外の景色を眺めながら、時折、バッグの中に手を入れ切符を触るのが好きだった。 東京に着くと母は書店へ向か