高見泰地七段(28)が立っている場所は限りなく将棋界の中心点に近い、と思うことがある。 NHK・Eテレ「将棋フォーカス」の司会、ABEMA将棋チャンネルの解説などで見せるキャラクターは老若男女に愛される朗らかさがある。盤を離れれば、先輩から同世代、後輩、女流棋士と垣根の無い交流を持ち、人が集う場所で語らいの真ん中にいる。 そして、何よりも2018年度に叡王のタイトルを獲得し、棋界の頂点を極めた棋士であるということ。 タイトルを得てから3年。 タイトルを失ってから2年。 10月1日にデビュー10年の節目を迎える男の今。 文・北野 新太/カメラ・矢口 亨 出会ってから今までで最も高見泰地が饒舌だった夜のことを覚えている。 2019年5月12日、新横浜駅前の酒場でのこと。世界が見えざる敵に脅かされることなど、まだ誰も想像していなかった夜だった。 高見は前日、第4期叡王戦七番勝負第4局で永瀬拓矢七