何が何でも大物になることに執着して言葉を連ねるヒップホップは、少なくとも90年代以降、後味の悪い残響を作り出した。リアリティ番組やアメリカ右翼の復興と安直に結び付けて、ヒップホップは現代の独裁資本になったと非難されることもあった。すなわち、全ての条件が整った今、常に再生され続ける営利主義的な欲望を具現化する道具になったのだと。 「ラップは、新しいアート表現だし、関わってる人間にも同じことが言える」。そう語るのは、セイントJHN(SAINt JHN)。以前はカルロス・セイント・ジョン(Carlos Saint John)の名で活動していた、ガイアナ系ニューヨーカーである。成功への飽くなき欲求を冷静に見据えるセイントJHNの歌詞と声には、これまでのラップになかった趣がある。自己表現、アーティストとしてのこだわり、体制が作り出す貧困から抜け出そうとする野心...それらが絡み合ったエネルギッシュな