東京電力福島第一原発の南15キロにある福島県楢葉(ならは)町。原発事故で国から避難指示が出て、人がいなくなった。5年近くたったいまでは廃炉や除染作業の拠点になり、作業員向けのプレハブ宿舎が立ち並ぶ。政府は昨年9月、放射線量が下がり帰還できる状況になったとして、全域避難した7町村で初めて避難指示を解除した。 小野勇誠さん(68)は妻洋子さん(68)と福島県いわき市の仮設住宅から自宅に戻り、建具の製造を再開した。荒れ果てた町内の住宅を修繕する人から、注文が入ってくる。「みなに楢葉に戻ってきてほしい。そのためにという使命感で働いている」 だが、不安は尽きない。持病で通っていた隣町の医院は再開されていない。夜、周囲で明かりがともるのは自分の家だけ。洋子さんは「外で足音がすると怖い」という。 政府は楢葉町を帰還政策のモデルにしようと、仮設商店街や電気、水道などインフラの復旧をいち早く進めた。しかし、