瞼を閉じているのか、開いているのかわからなくなる程の暗闇の中で、あたりでは物音ひとつせず、生きているのか死んでいるのかもわからないと思いかけたそのとき、聞きなれた耳障りな音が届き、それまでの経験上、(刺されたら痒くなる、だから刺される前に叩き殺さなければ)と考えると同時に、その場所がみなれた寝室であることも思い出される。よりよい睡眠を得るため、外からの灯りが入ってこないよう遮光性の高いカーテンを取り付けたばかりだったと思い返しながら、目はさえてきて部屋の灯りをつけ、耳元から飛び去ったものがどこへ行ったかと探し始める。 キジも鳴かずば打たれまい、というのとは少し異なるが、蚊は痒みさえ残さなければ、吸われる側から危害を加えられる事態は大幅に避けられるだろう。さらに言えば、痒みを残さないだけでなく、血を吸われた側に何かしらのメリットを与えられるようになれば、優遇された状態で、より効率よく血を吸う