『天皇のお言葉 明治・大正・昭和・平成』(辻田真佐憲 著) 日本において天皇というのは、その全ての発言がもれなく政治的意味をはらんで受け取られるきわめて特殊な存在だ。宰相であっても公私の区別くらいはされるが、天皇にはその区別すらもない。人間であれば当然することがあるだろう私的な発言ですらも、ときに日本全体を揺るがすことがある。本書は明治・大正・昭和・平成にかけての天皇の発言を、公的なもの私的なもの問わずに集め、それらがどのような政治的効果をもたらしてきたかを論じた本である。 まず、「お言葉」という呼称からして戦後の日本国憲法誕生にあたって「新設」されたものだ。したがって、この書評が世に出る時点でも、まだ歴史上三人にしか適用されていない呼称である。戦前までのそれは「勅語」と呼ばれていた。教育勅語の勅語である。教育勅語と聞けば眉をひそめる人でも、「教育についてのお言葉」なんて言葉遣いをされたら