8月9日(日) 長崎戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである。 吉田健一のこの言葉はみなさんも一度は目にしたことがあると思います。 これは終戦から12年経った昭和32年、吉田が長崎を旅行した際の心象を、朝日新聞の連載〈きのうきょう〉に綴った、「長崎」という随筆から切り取られたものです。 この箇所がひとり歩きし、広く知られるようになったきっかけはあとで書きますが、いま「長崎」の全文を読むのはちょっと大変です。 なぜなら、昭和30年代にいくつかの単行本や全集に収録された後、昭和54年に集英社から出版された『吉田健一著作集 第13巻』以来、どんなアンソロジーにも再録されていないからです。 ごぞんじのように彼は吉田茂の長男として生まれ、幼少の頃から中国やヨーロッパで生活。ケンブリッジ大学へ留学経験もありました。終戦の年の5月に軍隊へ応召されますが、敗戦が決まって