「首相、お会いになりますか。30分ほどならお時間はありますが」 秘書に問われて、直子は少し奇妙な感じがした。伸男なら昨日までバンクーバーにいたはずだ。手元のスカーレットフォンでグローバルフェイスを起動し、伸男のアイコンをタップすると、「やあ、姉さん、フクシマで会いましょう」というメッセージが出て来た。つまり本人らしい。セキュリティチェックに手間取るのではないかと秘書に問うと、もう済んでいるとのことだ。気を回してくれたのだろう。 「姉さん、元気? 首相の仕事って大変そうだね」ドアを開けるなり明るい口調で語る伸男も35を過ぎた。結婚する気はなさそうだ。それをいうなら自分もだがと直子は苦笑する。 「お祖父さまほど、大変ではないわよ」 「だろうね。僕もお祖父さまの墓参りに来たんだよ」 「昨年の33回忌には来なかったのに」 「サンフラワーサンクチュアリーの、あんな盛大な雰囲気には耐えられないよ。みん