桜庭一樹が読む ミステリー用語に“誰が殺したのか(フーダニット)”“どうやって殺したのか(ハウダニット)”“なぜ殺したのか(ホワイダニット)”というのがある。中でもホワイダニット物には、犯人の動機を問う良質な心理小説が多く、わたしも大好きな分野の一つだ。 さて。――王女サロメはなぜ預言者ヨカナーンの生首をほしがったのだろうか? 舞台はユダヤの王宮。兄王を殺してその妃を妻としたヘロデ王が君臨しており、兄王と妃の間の娘サロメは半ば囚(とら)われの身だ。サロメは牢に幽閉される預言者ヨカナーン(聖ヨハネ)に心惹(ひ)かれるが、母と同じ邪悪な女だと拒絶される。その夜サロメは、王から踊れと強要されると、見事な舞を見せ、褒美としてヨカナーンの生首を所望。やがて運ばれてきた生首に、熱烈な口づけをしてみせる……! 作者は一八五四年アイルランド生まれ。作家としてロンドンで時代の寵児(ちょうじ)となるが、同性愛