帰宅してすぐスーツを脱いでTシャツと短パンに着替えランニングシューズを装着した。ドアを開けると外は夜。星々と月。空気はひんやりしていて幻想的な生き物が建物の隙間からニュッと出てきてもおかしくはない。ランニングシューズのゴム底は神秘的なまでに柔らかで、歩くたびにたい焼き踏んづけているみたい。階段をすっすと降りる。暗がりから蛾が飛び出してきてちょっとカンフーみたいな動きになる。路地をもさもさ走りながら時計を確認すると18時で、帰宅予定時刻は19時。久しぶりに夜を走る。上手く走れるだろうか。 耳にはめたイヤホンからはジャズとなんかのクロスオーバーが流れていて、川の向こうの夜景によく合う。街灯の無い土手は月明かり以外の光が無い。土手の下に降りる階段にもっこりした暗い影が動いた。猫だと思ってよくよく見てみると何もない。猫の残像である。頭上を高速で飛んでいくのはコウモリで、月をバックに何を吸血しにいく