熊野で語り草になっていることがある。80年代初めに行われた白虎舎の合宿で、正確には暗黒舞踏のオーディションのようなものであった。僕も実態はよく知らなかった。なにがどうしてどうなったのか僕はスタッフとして誘われ、軽い気持ちで車に乗った。熊野という場所にも興味はあった。 体を動かすのは午後からで、午前中は様々な講師陣がいろんな話を聞かせてくれた。そのなかに水木しげるさんもいた。「騙されて連れてこられた」と後には語っていたそうだけど、水木さんは1週間に渡って滞在し、ほとんど毎晩のように僕たちスタッフにもいろんな話を聞かせてくれた。片腕がないことを、僕はその時まで知らなかった。『河童の三平』や『ゲゲゲの鬼太郎』は片手で描いていたのかと僕はショックを受けた。単純に片腕の重さがないわけだから、水木さんが歩くと上半身はバランスを取ろうとして大きく揺れる。水木さんは振り子のように歩いていた。大変だなー、大