2016 - 01 - 17 歳月記 帰省の折、祖父が今年で八二歳になると耳にした。「爺さんもう八二で、いつ死ぬるかもようわからんのに、元気じゃろ」と祖母は言う。確かに祖父はまだまだ利発で、痴呆者特有の愚鈍さはない。四〇歳で独立し、地域の仕事を引き受けて繁盛させた。引退後は「何か趣味が欲しい」と言って畑違いの農業を始め、今や農業だけで孫の年収を超えるまでになっている。近隣の商店には、野菜とともに祖父の顔が並んでいた。 祖父にはもう一つ趣味がある。農業に手を出して直ぐの時、畑から土器が出土し、それが切欠で地域史の編纂に携わるようになった。節くれ立った指で出土品の写真をなぞり、その発見の様子を語る祖父は、確かに年齢よりも数段若い。しかし、その実やはり腐臭のようなものを纏っており、溌剌とした外面を一皮捲れば、生命を維持する機能の全てがやはり末端から壊死しているのだろうと判った。どこかに影を落と