小川洋子の透明感のある作品世界には、ある種の中毒性があるかも知れない。現実的ではあるのに、どこか幻想的な香りと何か憂鬱で気怠い趣きが漂い、だからこそ妙にリアリティに包まれたりする・・・・不思議な作風に私は強く惹かれる。 〜声はいのち、言葉は人生、それこそ彼らが遺したもの〜 「人質の朗読会」は、そんな彼女の稀有なる作品世界を堪能できる素晴らしい小説だ。「妊娠カレンダー」や「博士の愛した数式」で知られる作家、小川洋子の作品の多くは、設定の絶妙さが秀逸だと思う。 すべてではないが、設定自体でもう半分は成功しているようなものだと言えば言い過ぎだろうか。 もちろん、奇抜でもなければ非現実的でもなく、彼女が紡ぎだ出したい物語の背景として、もっとも相応しいように肌理細かく設定されているのだと感じる。 そして何より、彼女の小説で味わうべきは設定の妙にあらず、あくまでも物語を通して描かれる人間の強い儚さ・・