「あそこはあれで本当に良かったのか。最善の手はなんだったのか。その結論が簡単には出せないんです。だから一旦考え始めたら、どこまででも考えられちゃうんです。だから……」 視線を落として熟考したのち、ちょっと早口で答える。 「それに一旦ケリをつけるためにコンピュータ将棋を活用している部分はあります」 香川愛生女流三段である。 2008年、15歳で女流2級としてプロ入り。2013年、第35期女流王将戦本戦トーナメントを制し、里見香奈女流四冠(当時)を破って女流王将に。翌年もタイトルを防衛。昨年公開された映画「女流棋士の春」では主演し、なんと主題歌も担当。「ファミ通」や朝日新聞に連載を持つ、強くて多方面で活躍しているプロ女流棋士なのだ。 ”将棋界のまゆゆ”と異名をとる女優棋士と、コンピュータ将棋を知ろうというのが趣旨。この時、彼女の真向かいにはこの男が座っていた。 見た感じは、ごく普通の会社員だ。