はじめに 地政学という言葉は世間にあふれている。本屋の国際情勢コーナーを眺めてみれば、そのように銘打った本がいくらでも見つかるだろう。 しかも、氾濫する「地政学」の意味するところは多様である。国際的リスクという程度でこの言葉が使われる場合もあるし、シーパワーとランドパワーの対決という古典的論理で世の中の動向を読み解こうとするものもある。そうした地政学理解を鋭く批判した「批判地政学」の書もあれば、接続性こそが今後の鍵だと説く「接続性の地政学」論を提起するものもある。 こうした中で、本稿が用いる「地政学」は、古典地政学のそれに近い。国家を(特に大国を)主語として、その勢力範囲がどこまで及ぶのかを巡って繰り広げられる角逐(かくちく)がその焦点だ。2022年2月24日にロシアが始めたウクライナへの侵略は、もはや過去のものと思われた古典的地政学の復活と言ってよいだろう。前述した「接続性の地政学」と対