アムステルダム、ケルン、パリ、シドニー、タイ、上海、新宿、大阪……さまざまな都市の情景を写しとった作品によって構成される、「凶区 Erotica」。雑然とした街が森山大道に見せる表情は、エロティシズムをあふれさせ、ただならぬ空気をたちのぼらせます。森山大道が感知する瞬間は、シャッター音とともにファインダーによって切り裂かれ、彼の視覚といりまじり、すべてが等価の塊へと変換されています。 海外の都市で催される個展のために、年に数回は機上の人となる森山の地球規模の移動の痕跡であるにもかかわらず、切り取られた像は、写真家の体内にひそむ自身すら掌握していないかもしれないほどの深みに落ち込みなにものかと融合しながら、ただひたすら、路地へと回帰していくように見えます。 その位相のギャップのなかにひそむ巧まれざる変容は、するりと見る者の追尾をかわし、どこの地とも判じ得ない、混沌の磁場へとわれわれを誘い