ワム!「ラスト・クリスマス」のメロディは実はゴーストライターの手によるものだ。おまけにそのゴーストは日本人である――。 すべての発端はそんな与太じみた噂だった。 作者である西寺郷太がその噂を耳にしたのは2008年、DJとして参加した島根県でのイベントの帰りに、岡山駅へ足を伸ばしたときのことだった。目的は「大幸」という有名焼肉店と、29歳という若さで飲食店を多数経営するかたわらイベントオーガナイザーとしても活躍していた阿野君に会うことだったのだが、座が暖まった頃、阿野君が思い出したように件の噂を漏らしたのである。 最初は鼻で笑っていた西寺だったが、かすかな引っかかりを覚える。 西寺はノーナ・リーヴスのヴォーカルである一方で、ポップ・ミュージック研究家の顔も持っている。その真摯な追究スタイルと該博な知識は『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』(新潮文庫)、『マイケル・ジャクソン』(講談社現