この小説を読むときに、「これはユートピア=ディストピア小説」という先入観があったのだけど、実際には違った。 『ハーモニー』の世界は、病気というものが一部の遺伝病を除いて根絶された世界、WatchMeという体内のインプラントによって身体の恒常性が維持され、またそれによって、健康/健全であること当然のことであり――それが徹底されている世界だ。 ただ、子供はその成長という変常性(?)から、WatchMeはインプラントされていない。 ストーリーとしては、主人公が少女時代に出会った御冷ミァハとの縁起から始まる。 ユートピアというのは遍く同質性を構成員に求めるものであって、共通の約束事を共有しているという意識、もしくはそのもっと漠然とした雰囲気、「空気」が『ハーモニー』の世界をユートピアのようにみせている。 少女らは大事に管理されているが、それは彼女らの異質性を排した「公共物」=社会に対して同質性をも
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