激しい弾圧と差別に遭いながらトルコやイラン、イラク、シリアにまたがる地域に住む独立国家をもたぬ先住民族、クルド人の思いがこもった『あるデルスィムの物語-クルド文学短編集』(さわらび舎)が刊行された。1937年から38年にかけてトルコ東部のデルスィム(現トゥンジェリ)で起きた虐殺事件をテーマに、10人のトルコ人作家が描いた記憶と葛藤を巡る物語を集めた。 本紙「新 世界文学ナビ」で取り上げられたブルハン・ソンメズの「先史時代の犬ども」や、ヤウズ・エキンジの「祖父の勲章」など。トルコが国を挙げて沈黙してきた事件について、強制移住の悲劇や沈黙を強いられた人々の子孫の人生が、被害者と加害者の双方の視点から描かれる。55年生まれのトルコを代表する作家の一人、ムラトハン・ムンガンが書き下ろし作品を編んで2012年に刊行され、クルド文学翻訳者・トルコ語通訳の…
毎日出版文化賞を受賞した(右から)古処誠二さん、東浩紀さん、千葉聡さん、田川建三さん、前野ウルド浩太郎さん 第71回毎日出版文化賞(特別協力=大日本印刷)の贈呈式が11月30日、東京都内で開かれた。受賞者5人の喜びの声を紹介する。 編集者の言、正しかった 古処誠二さん 第二次世界大戦中のビルマ山中を舞台にしたミステリー小説『いくさの底』(KADOKAWA)で文学・芸術部門を受賞した作家の古処誠二さんは、緊張した面持ちで登壇し「2000年のデビューから17年たち、初めて担当編集者さんのアドバイスに耳を傾けて書いた作品です。(それが受賞に至り)担当さんの言うことは正しいと思った次第です」と会場を笑わせた。 さらに「今後、古処に賞を与えて間違いなかったと言われるような作品を書きたい。次作にご期待ください」と背筋を伸ばして決意表明し、大きな拍手を浴びた。
高松市亀井町に8月オープンした本屋「ルヌガンガ」が話題を呼んでいる。取り次ぎ会社からの自動配本に頼らず、店主の目利きで本をそろえる「セレクトショップ」だ。地方では珍しい経営方式で、店内にはカフェも併設し読書会や映画上映会、作家のトークイベントも開く。全国的に廃業する書店が増える中、「ベストセラーではなくても隠れた良書がある。ぜひここで出会ってほしい」との姿勢を貫く。【小川和久】 店主の中村勇亮さん(35)と妻の涼子さん(41)が営む。勇亮さんは信州大を卒業後、名古屋市内の大型書店に就職。しかし機械的にベストセラーや雑誌、コミックを販売する日々に違和感を抱いた。出版業界が苦境の中、独自の工夫やサービスに乏しい従来型書店の未来は暗いと感じたという。
今週の新刊 ◆『森へ行きましょう』川上弘美・著(日本経済新聞出版社/税別1700円) 川上弘美の新作長編『森へ行きましょう』は、あっと驚く趣向による新聞小説。1966年の同日に生まれた2人の娘が留津とルツ。ただし双子ではない。ありえたかもしれないもう一人の「自分」が、交互に描かれる。 たとえば93年に留津は結婚するが、ルツは2015年に48歳で結婚するまで独身である。しかも、相手は同じ神原俊郎で、少し設定が違っている。ほかにも11年東日本大震災など、彼女たちは分岐点で迷い悩み、新たな道を選ぶのだ。 自分の意志で選択している気でいるが「人は誰も深い森の中にさまよう」(ルツの言葉)ように生き、みんな寂しい大人になっていく。読者は2人の年齢に応じて、深く共感するはず。離婚しなくても妻は夫を、夫は妻を何回か捨てるという怖い省察もある。 実験小説みたいだが、そうじゃない。不確定な未来と向き合う2人。
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