重なり合うことを求めず出会った意味を探し合う ◆『彗星の孤独』寺尾紗穂・著(スタンド・ブックス/税別1900円) ここまで起きたことを受け止めようとするのがやたらとしんどい時、同時に、これから起きそうなことまで抱えてしまうから、もっとしんどくなる。前借りして抱えこむ様子に対して「大げさだよ」なんて言葉で処理されると、すっかり身動きがとれなくなる。視界がせばまる。 音楽家・文筆家の寺尾紗穂が記したエッセーを一編ずつ読み進めていくと、横軸・縦軸の話にぶつかる。「私たちは、普段横軸の世界に生きている」けれど、「詩の朗読や音楽というのは、そこに、縦軸を現前させることができるように思う」。音楽、あるいは読書のすごいところは、「同時に多数の人に時間の縦軸を見せられるところ」。
駅や鉄道のたたずまいが心象風景を物語っている ◆『あの映画に、この鉄道』川本三郎・著(キネマ旬報社/税別2500円) 映画を見ていて鉄道を思い出す。鉄道に乗っていて、映画を思い出す。映画と鉄道という、まるきりの異分野が、こんなに親密に関係づけて語られたのは初めてのことだろう。映画評論家が、たまたま大の鉄道好きで、映画に使われた駅や路線をさがしあて、その駅に降り立ったり、その路線の乗客になってみた。ひそかにたのしんでいたのが、つもりつもって、ここでは二百数十本の映画にわたり、それぞれに応じる駅や風景が語られている。 ホビーから始まった趣味性のつよい本のようだが、それは見かけのこと。気がつくと、日本の鉄道の思いがけない数々の特性がさりげなくちりばめてある。
最新作や代表作100点を展示 幼い頃に事故で両腕を切断したハンディを抱えながら意欲的に創作活動に取り組んできた江戸川区在住の書家、小畑延子さん(75)が、自叙伝「なくした『手』を探して ある書家の旅路」(皓星社刊、税別2300円)を出版した。出版を記念する個展が、中央区銀座6の銀座洋協ホールで開かれている。【江刺正嘉】 小畑さんは神戸市生まれ。5歳の時、近所で遊んでいて、誤って製材所の機械で肘から下の両腕を切断したが、中学入学と同時に書道に出会った。両肘で太い筆を挟み、体全体を使って文字を書く手法で、めきめき腕を上げた。短大卒業後もソーシャルワーカーとして児童養護施設や民間の里親あっせん団体で働きながら書と向き合う努力を続け、日展にも3回入選した。
「できる」を受容しない、いびつな感性を突く ◆『障害者と笑い 障害をめぐるコミュニケーションを拓く』塙幸枝・著(新曜社/税別2200円) 毎夏放送される「24時間テレビ」が繰り返してくる、障害者によるチャレンジ企画への違和感。障害者と健常者を明確に区分けし、「この人は障害者なのに、〇〇をやりきった!」で健常者の涙を誘発する作りに辟易(へきえき)する。そもそも、これらのチャレンジ企画の「目標設定そのものが健常者の身体を基準として成立するものである」とする著者の指摘がいきなり鋭い。 確かに、速く走ったり、山を登ったり、プールを泳ぎきるという設定自体、障害者の人たちだって、頑張れば健常者と同じことができるのでは、と問う傲慢さがある。「障害者を笑うこと」と「障害者が笑うこと」と「障害者と笑うこと」を混同し、障害者と笑いの結びつきについて考察することから逃げる。その持続によって、メディアの中で障害者
たくさんの時間をかけて たくさんの人の手を経る ◆『本を贈る』若松英輔他・著(三輪舎/税別1800円) 校正者がチェックしてくれたゲラ刷りを見て、よし、これでおしまい、と最終確認したゲラを編集者に預けてから、本が書店に並ぶまで1カ月ほどかかる。即座に言葉を届けられる世の中にあって、本の言葉は、届くまで時間がかかるのが嬉(うれ)しい。デザインする人がいて、印刷する人がいて、製本する人がいて、仕分けて運んでくれる人がいて、店に置いてくれる書店員がいる。これ、どうですか、と薦めてくれる書店営業がいる。ようやく読者が手に取ってくれる。 原稿を書いている時には、ひとりでジェットコースターに乗っているような怖さがある。やがて、そうか、隣に編集者が乗っていると気づく。最終的に、あれ、前にも後にも、たくさん乗りこんでいるコースターだったのかと、勇気が湧いてくる。
横山岩男の歌集『青桐』(飯塚書店)を開く。横山は歴史ある歌誌「国民文学」を発行するベテラン歌人。ひたむきに真摯(しんし)に確かな生の実感を詠う。 <余剰なる言葉省けば現るる真実といふ隠れなきもの>。これは「聖母子像」で知られる画家のボッティチェリ展を観ての作だ。「聖なる母子」に偽りの影は微塵(みじん)もない。言葉もまた生まれたばかりの「真実の言葉」が理想だと歌人は言っている。<素朴なる詠風今もわが裡にありや都会の風はあこがれ>。実直・素朴な詠法が持ち味だ。 その横山が『千代國一の短歌』(現代短歌社)を刊行した。千代は、窪田空穂が創刊した「国民文学」を長年支えてきた。情愛に満ち、しかも自らの生をまっすぐに見つめる歌が魅力だった。13冊にのぼる歌集から実に900首に鑑賞を施した大部な一巻だ。
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