ブックマーク / musashimankun.hatenablog.com (9)

  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第29回「二人の逃避行 ヒゲさんは一体、何者だったのか」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    ジョイというハスキー犬 ヒゲさんは自宅に着くと徹をはなえを先に降りるようにうながし、車を車庫に入れた。 玄関の横には縦横2メートル程の柵が作られ、中には大型犬が寝そべっている。 「ジョイ」とヒゲさんが呼ぶと、尻尾を振りながら犬が柵ごしに駆け上がってこようとした。ヒゲさんは「よしよし」と柵の隙間から犬の頭をなでた。 「ずいぶんと、大きな犬ねえ」 はなえが少し怖そうに言う。 「はい。ジョイです。ハスキー犬ですけ。大丈夫ですよ」 ヒゲさんはうれしそうにジョイの首のあたりをなでながら答えた。 「また、あとでな」 ヒゲさんは言いながら自宅の玄関の方に歩くと戸を開けた。 「帰ったよお」大きな声で言いながら、「さ、どうぞどうぞ」と徹とはなえに家に入るよう勧めた。 「いらっしゃい。こんにちは」 家の中から一人の女性が出てきた。 「今日、『もとずろう温泉』に泊まるお客さんだ。さっき『竜乃湖』に連れてったさ。

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第21回「二人の逃避行 行き先は、あの『もとずろう温泉』」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    さあ着いたよ。尾花だよ コーヒーを飲み終わった後で徹とはなえはトイレに寄り、駅のホームで電車を待った。 やがて「もとずろう温泉」のある尾花駅行きの電車が予定通りに来た。 二人は電車に乗ると座席に座り目を閉じた。話していると冗談を言うはなえだが、さすがに70代後半となると、近場のプチ温泉旅行とはいえ慣れない早朝の行動は楽ではない。電車は居眠りする二人を起こさない安定した速度で走りながら尾花駅に着いた。 「着いたよ。尾花だよ」 徹は隣で居眠りするはなえに声をかけた。少し驚いた様子ではなえが目を覚ました。 「早いねえ。もう着いたかい?」 リーン、やがて出発の高い音が駅構内に響く。 「さ、行くよ」 徹ははなえの右手を握った。 「よいしょ。もう着いたの。寝てたよ」 はなえは少し寝ぼけたような口調になった。 土曜日の午前9時過ぎ、既に尾花駅構内は登山客で賑わっている。徹はまだ、会社に正社員として勤務し

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章第15回「家族の冬風には、冗談も笑っていられないなあ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    すれ違いの増えた家族 徹が図書館を出る頃には午後4時を過ぎていた。そのまま、「ラッキー園」に戻り駐輪場のバイク置き場にいく。徹はいつも「ラッキー園」まで50㏄のバイクで通っているのだ。 ヘルメットをかぶりながら、徹はついさっきに会った春香さんといい、「中華屋・ぶんぺい」で昼間からビールを飲んでいた五十六といい、清掃の仕事をし始めてから、自分は妙というか何か変な、今までに会ったことない人物に会うようになったことに気づいていた。 「無我・・・・か。んなこといってもなあ。自分は自分だし現実は現実だし」 春香さんの言ったこといが、もう一歩、理解できないまま、徹はバイクのアクセルを踏んだ。ここから15分も行けば自分の住む住宅に着く。自宅に戻ってもまだの多恵子も帰宅していない。 そういえば、近くのアパートに住む和樹とは最近は会うこともほとんどなくなった。1週間に1度は実家に帰宅しているらしいが、多恵

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章第13回「辛い時は戦時下を思え、と春香さんは言った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    図書館であの人に再会 「初心・・・・大事だよなあ、やっぱ」 徹は控室の壁に貼ってある「初心忘るべからず」の言葉を頭の中で反芻しながら「ラッキー園」の外に出た。 午後3時過ぎ、冬の空は晴れているとはいえ、どこかグレーの色合いを漂わせつつあった。この時間帯は「中華・ぶんぺい」には暖簾は掲げられていない。午後5時までは休息時間なのだ。 徹は向かい側の道路に「中華・ぶんぺい」の店舗を見ながら、そのまま真っすぐに●●駅へと向かった。10分も歩けば駅に到着するが、「ラッキー園」で仕事を始めてから、徹は駅近くの図書館に寄ることが増えていた。新聞を読めるからだ。 図書館はまだ建築されてそれほど時間が経過していないのか、新築の匂いがする。館内には学生や主婦や子供、そしてなぜかおじさんたちが多い。おじさんたちには定年した人や失業中の人が混じっているだろうなと徹は思う。 徹はいつものように新聞がストックしてある

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第12回「絶望するなかれ。今が大事よ。身体が動けば何でもできる」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    身体が動かないと苦痛になる仕事 徹は目を覚ますと、ずずっと椅子からずれ落ちそうになった。な、なんだ、今の夢は・・・。そのまま椅子に座ったままで、ぼおおっとしていた。いつもゴミの回収をし終わるのが午後2時過ぎだから、終業時間の午後3時までは1時間ほどの余裕ができるようになっていた。 来なら、施設内を見回って汚れているところがないか確認すべきなのだが、そこまで徹は仕事熱心ではない。一般的には1時間も余裕のある現場などないに等しい。しかし、ここはなぜか時間的に余裕があった。ま、それは徹の仕事の様子を見なければ、どんな感じか分からないという会社側の思惑でもあった。ま、信じられていないのよ。 他の女性二人はしっかりと業務をこなす方だ。が、実は男性でしかも、それなりの大学を出て、徹のような正業に就いきていてある程度の年齢に達している者には、身体が動ない人間が多い。 まだ年齢的に若かったり、継続して何

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第9回「昼間からビール三昧の五十六の鋭い眼光にヒヤリ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    昼から生ビールを飲む顔の大きな男 徹は文平の言う、たかど、という名前を聞いたことがなかった。 「たかどさん・・・・ですか」 「確か、『キタキツネビル』で働いているって言ってたな」 顔の大きなベートベン似の男が言った。 「『キタキツネビル』ですか・・・・」 クリーンモリカミは●●市内では「ラッキー園」のほかに「キタキツネビル」や「エゾリスビル」で清掃業務を行っているが、徹は「ラッキー園」でしか仕事をしていないから、「たかど」という人物のことも顔も知らないのだ。 アルバイトのくみ子がベートベン似の高戸五十六に焼き肉定を運んできた。 「ありがちょう、これおかわり」 五十六はくみ子に空になったビールジョッキグラスを渡す。 昼からビールか・・・・いいなあと徹は思う。 「生、おかわりです」 くみ子がグラスをカウンターの上に置いた。 「ちゃんぽん一つ、お願いします」 徹がくみ子に注文した。 「中華屋・

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第8回「ジャジャジャジャーン、ベートベン男と会った」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    中華屋で会った顔が大きい男 徹は「ラッキー園」を出ると道の向かい側の「中華屋・ぶんぺい」の暖簾が出ているのを確認した。信号が青に変わったのを確認すると、急ぎ足で歩道を渡る。 「こんちわ」 「中華屋・ぶんぺい」の戸を開ける。ガラガラと音を立てて開いた。まだ中には客は1人しかいない。午前11時40分過ぎ、これがあと数十分もすればいつの間にか満員になる。ほんの20分の差で待たなければいけないか待たなくてすむか。 「どうも、いらっしゃい」 いつもの文平の声が店の奥から聞こえた。昼間は厨房の中に2人、客対応に1人の3人で対応する。厨房の中では文平の・ゆう子、接客はアルバイトの井戸くみ子が手伝っている。くみ子はまだ30歳になったばかりで、店の近くのマンションに住む主婦だ。 もちろん、昼は「中華屋・ぶんぺい」にとって忙しい時間帯だから、いつもこの時間帯はほとんど徹が文平と話すことはない。徹も店に置いて

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  • 「闇が滲む朝に」🐑章 第5回  「綺麗に磨けば心も洗われるのよ」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    ひたすら身体を動かし続ける仕事 徹は「ラッキー園」の総務の部屋を過ぎ、奥の小さな清掃員用の休憩所に入った。午前11時、そろそろ明子も伸江も休憩にはいる時間帯だ。 徹の仕事は午前6時から午後3時までと契約されているが、実際には午前中は11時半ごろまでに終わることが多い。そして午後1時から3時まで。この間に、施設の掃除機がけ、ゴミの回収、トイレ清掃、そして庭掃除などをこなす。 清掃の仕事は契約時間の3時間から4時間は、業務を急いでこなしていかなければいけない所が多い。多くが3時間のパートタイム契約だから、これが普通なのだ。身体を使う、いわゆる頭脳労働ではないパートの仕事はとにかく、いそがしいことが多い。 現代の日社会には正規雇用で働ける人は減る一方で、契約かアルバイトが多くなっているが、頭脳労働でない限り、この人たちは、ひたすら肉体を酷使し仕事を継続しなければいけないのだ。 徹の働く「ラッキ

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  • 「闇が滲む朝に」🐑 章 第4回「渡り鳥のように飛び続けることができるか」 - Novel life~musashimankun’s blog~

    渡り鳥の飛来に感謝する 徹はカートから落ち葉の入った90ミリリットルのビニール袋を取り出し、高齢者施設「ラッキー園」の庭の隅にある横用具入れ隣のゴミ収集倉庫に置いた。 ピーッ、ピピピ、どこからかツグミの鳴き声が耳に届く。 目の前に広がる青い空と黄色い葉が広がる庭を眺めながら、ツグミはなぜ、日に飛んでくるのかと考えたりする。ま、暇なんだ、ようは。 そういえば、ツグミに限らず、決まって冬になると日に飛来する渡り鳥たちは多い。 徹は若い頃に新潟市内の佐潟でハクチョウを見たことがある。偶然に出かけた湖だった。このハクチョウは冬になるとシベリアやアイスランドから飛来するのだ。ツグミは確か中国あたりからだった。 なぜ、渡り鳥は長い距離を旅することができるのだろう。太陽や月、地場のエネルギーの変化を敏感に察知して移動するらしい。 今年もツグミやハクチョウが変わらずに、日に来てくれることに感謝しなき

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