玉水物語 2巻 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ ※この記事では、京都大学貴重資料デジタルアーカイブの画像を、適宜改変して使用しています。 【原文】 [長歌] 束の間も 去り難かりし 我が住み家 君を逢い見て 其の後は 静心《しづこころ》無く 憧《あくが》れて 上《うわ》の空にも 迷いつゝ 儚《はかな》き物を 数ならぬ 憂き身成りける 物故《ものゆえ》に 漫《すゞろ》に身をバ 筑紫《つくし》[※「尽くし」とかけた]船 漕《こ》ぎ渡れども 晴れやらで 浪に漂ふ 細[笹]蟹《さゝがに》[※蜘蛛《くも》の古名]の 糸筋よりも 微《かすか》かにて 過ぎにし月日 数《かぞ》ふれば たゞ夢とのミ 成りにけり 我が身一つハ 如何《いかに》にせん 君さへ長き 恨みをば 負ひなん事の 由《よし》無さよ 朝夕君を 見る事も 身の類《たぐひ》ぞと 慰めて 夢現《ゆめうつゝ》とも 分き難く 明かし暮らしつ