人から聞いたばかりの「セレンディピティ」という言葉を、受け売りで解説し始めると、 「舌をかみそうな言葉ですね」 カウンターの向こうでコーヒーを淹れながら、店主のハヤさんが言った。 セレンディピティは、18世紀のイギリスの作家ウォルポールの造語で、ペルシアの寓話『セレンディップの三人の王子たち』が語源となっている。 物語のなかで王子たちが旅に出て、途中で遭遇する思いがけない出来事を、機転によって幸運に変えていくところから、もともと探していなかった何かを発見し、その価値を見い出すことをセレンディピティというのだ。 おもしろそうに話を聞いてもらえて満足した私は、香り高いコーヒーをゆっくりと味わった。 「このあいだは、伊作とザシキワラシの話をしたので、今日は長太郎のことを話しましょうか」 ふと思いついたようにハヤさんが、前世で寸一という行者だったころの昔語りを始める。 △ ▲ △ ▲ △ ある日の