新 奇談の犬たち 「家狗の霊妙」(『三州奇談』より)その1 堀麦水の『三州奇談』は、近世中期に成立した加賀・能登・越中の奇談集です。 今回はそこから、「家狗の霊妙」(巻之四)を読んでいきます。 「家狗の霊妙」は、人に飼われている犬の行動の不思議についての伝承なのです。 奇談といえば狐狸が主役と相場は決まっていますが、犬にも不可思議なことがあったのです。 人との長い歴史を共有する犬は、猟犬・牧畜犬・番犬、さらには愛玩犬として、共に暮らしてきました。そのためほかの動物に比べて伝承の数も多くあります。 「家狗の霊妙」は、犬が霊力を発揮する話を集めたものです。 人間のそばにいた犬はその嗅覚や聴覚になどによって、人間にはわからないことを知る能力を持っている動物とされ、犬はその霊力により、人間にはない力をもっていました。 また犬は魔界のものを撃退する力をもっており、人の世と異界とを往来する動物の一つと