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  • 柳田国男 遠野物語

    [#改ページ] この話はすべて遠野(とおの)の人佐々木鏡石君より聞きたり。昨(さく)明治四十二年の二月ごろより始めて夜分おりおり訪(たず)ね来(き)たりこの話をせられしを筆記せしなり。鏡石君は話上手(はなしじょうず)にはあらざれども誠実なる人なり。自分もまた一字一句をも加減(かげん)せず感じたるままを書きたり。思うに遠野郷(ごう)にはこの類の物語なお数百件あるならん。我々はより多くを聞かんことを切望す。国内の山村にして遠野よりさらに物深き所にはまた無数の山神山人の伝説あるべし。願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。この書のごときは陳勝呉広(ちんしょうごこう)のみ。 昨年八月の末自分は遠野郷に遊びたり。花巻(はなまき)より十余里の路上には町場(まちば)三ヶ所あり。その他はただ青き山と原野なり。人煙の稀少(きしょう)なること北海道石狩(いしかり)の平野よりも甚(はなは)だし。或いは新道なる

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