○岡田温司『グランドツアー:18世紀イタリアへの旅』(岩波新書) 岩波書店 2010.9 グランドツアーとは、イギリスの支配階級や貴族の子弟たちが教育の最後の仕上げとして体験する、数ヵ月から2年程度のイタリア旅行のこと。17世紀末に始まり、18世紀後半にピークに達した、と本書は説明している。ただし、Wikiによれば、目的地は必ずしもイタリアに限らなかったらしい。一方、本書は、18世紀、ヨーロッパ各国の旅行者を吸い寄せた「イタリア」に着眼して書かれており、登場する旅行者は「イギリス上流階級の子弟」に限定されていない。つまり、本書の内容とタイトルには、いくぶんの誤差があることを注意しておきたい。 しかし、そんな些細なことを気にしなければ、十分に面白い本だ。本書は「人」「自然」「遺跡」「美術」の4つの章から成る。「人」の章は、「先進国」イギリスからの旅行者が、イタリアの過去の栄光と現在の体たらく