以下は人がいかにネタを見抜いたと思い込み、狡猾な作者の罠におちいるかというお話。 最初に気づいたのはここだ。 わたしの手書きがとても酷いと思う人もいるようだが、わたしはそうは思わない。仕事を引き受けたならば——授業を受け持たねばならないとしての話だが——生徒に黒板に板書させるか、授業では黄色い紙に紫色のインクで印刷してあるノートを配るようにしよう〔……〕(p.222) はて? とわたしは首をひねった。マーシュ博士の字が読めないほど汚いわけがない。士官は博士が書いたカンバス地のノートの日誌を難なく読んでいるではないか。 字が汚いのはV.R.T.のほうのはずだ。これは第3部の冒頭でふってある。「どこか形がいびつで、まるで看板の文字を見た野蛮人が真似て書いたもののようだった」(p.182) また、マーシュ博士自身が日誌でV.R.T.の「筆記はみじめなものだった」(p.212)と書いている。自分も