アフガニスタン南部ウルズガン州のこの峡谷に、突如、銃声が響きわたった。2012年夏のことだ。アフガン地方警察が新たに築いた検問所をめがけて、タリバン兵たちが周囲の山々から攻め降りてきたのだ。砦を兼ねた検問所を守る指揮官は、このストーリーの主人公ワシル・アフマドのおじのサマド。日没まで続いた攻防戦で、サマド率いる地方警察の民兵たちはタリバン兵10人を殺害して攻撃を撃退したが、味方にも3人の犠牲が生じた。そのひとりが、ワシルの父親のハミドゥラだった。そして夜、一族が仮住まいとする3階建ての日干しレンガの検問所が闇にすっぽりと包まれると、サマドたちが、ハミドゥラの亡骸を屋内に運び入れた。ワシルは頬を涙に濡らして、物言わぬ父にすがりつく。薄暗がりのなかでも、父の着衣にこびりついた血がはっきりと見てとれた。いったい誰が、どうして父を……。そういったことも理解できる年齢になっていた。