文:はくたく 苦い経験がある。 ある年の台風の過ぎ去った早朝。俺は犬の散歩中に子猫を拾った。 最初は猫だと分からなかった。白黒ブチのその子猫は、掌にすっぽり収まるくらいに小さく、色も形もまるで紙くずそっくりだったからだ。 道の真ん中にうずくまっていたにもかかわらず、連れていた二頭の犬……サクラとモモが色めき立たなかったら、気づかずに通り過ぎていたかも知れない。 拾い上げても声も出さず、反応はほとんど無い。 だが、意識はハッキリしているようで、ちゃんと目を開けてこちらを見た。 ● 我が家は二匹の犬がいて、妻は猫が大嫌いで、その影響を受けたのか、息子も娘も猫が嫌いだ。要するに自宅で猫を飼える状況ではないのだが、一度拾ってしまったからには、放置もできない。 俺はその子猫を懐に入れて、自宅へと連れ帰った。 朝飯の支度は俺の仕事だ。それ以外にも犬の餌やり、ゴミ出し、家族を起こすなど、バタバタと忙しい