大学時代に文学批評をかじったことのある人間としては、「物語(ストーリー)」という言葉にどうしても敏感になってしまう。最先端の文学批評にとって「物語」という概念は批判的に取り上げられることがほとんどだからだ。 現代の文学批評が「物語」に批判的である理由は、小説や映画などを読み解くときに、僕らがあまりにも「物語」に目を奪われすぎて、実は作者がいちばん苦労している文体や形式の問題や、作品に織り込まれた時代の風俗的な背景、その他多くのとても大事なことを見逃してしまうからだろう。 たとえばあなたが映画に行ったとする。見終わったあとに真っ先に話題になるのは、たぶんストーリーのことだろう。「おもしろかったね」「最後までハラハラしたね」「ストーリーが複雑すぎてよくわからなかった」などなど。 もう一歩踏み込んだとしても、せいぜい登場人物の心理分析だろう。「あんなに恋人のことを愛せるなんてすごいね」「子供の頃