刊行にあわせて東さんはこんな宣言をした。 「哲学書の読者を大きく変えたい。本来の市場を自己啓発書とスピリチュアル本に取られている」 「今まで哲学や思想なんて関係ないと思っていた人に読んでほしい」 東浩紀さん。1990年代後半、新世代の哲学者としてデビュー作が異例の売れ行きを記録し、一躍「時の人」になった。 その後のキャリアは華やかだが、かなり変わっている。 哲学や批評だけでなく、小説、人生論を交えたエッセイも書き、賞を次々と受賞する。 早稲田大に勤めたこともあったが、一転、自ら起業した出版社「ゲンロン」の社長に。 いまは批評誌の出版、トークイベントを主宰と多忙な日々を送る中小企業の社長兼哲学者だ。 そんな東さんが「今までで一番、自信がある」と送り出した一冊が『観光客の哲学』である。 言葉はあくまで平易で、専門用語を知らなくても読める。しかし、中身は今日的でありながら、議論の射程は歴史を捉え