子供だった男の子のころ町の中にある誰も住んでいない家に入り込んで探検したこと。廃墟の中には空になった一升瓶、布団のない掘りごたつ、死人のような枕の中身、ものすごく汚い金かくし、使い古されてぎざぎざになった箒。畳が上げられてむき出しになった板間、打ち捨てられた神棚、埃が指でなぞれば溝になるほどたまった雑誌の束、かび臭い風呂場、蛇口を開けてもなにもでてこない錆びかけた流し、くたくたになってクモの巣が張っている雪駄、はがれかけたNHKの受信シール、観音開きのテレビ。洋式便所はなぜかかならず横向きに転がっている。町田町蔵の大仏はめったにないのだけど、なぜかアイヌ彫りの熊はどこの廃墟にも鎮座していた。ほとんどかならず。ブラウン管を誰が一番に割れるか、と石をなげて、”パン”と割れる瞬間にぼくらはとびのいて大喜びした。石じゃだめだった。コンクリの塊。でもたぶん私は今廃墟の側にあるのであって、その廃墟の側