マレーシアで2月に殺害された金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キムジョンナム)氏は生前、韓国政府に金銭の困窮や身辺の不安を訴えていた。韓国政府が2016年初めから正恩氏の追い落としを図ったことが、殺害につながったとの見方もある。北朝鮮の「ロイヤルファミリー」から転落した正男氏の数奇な人生を、関係者の証言でたどった。(ソウル=牧野愛博) 「皇太子」一転、追われる身に 正男氏は1971年、金正日(キムジョンイル)総書記と成恵琳(ソンヘリム)夫人の長男として生まれた。 金総書記には当時、金英淑(キムヨンスク)氏という別の夫人がいた。父の金日成(キムイルソン)国家主席に対し、成夫人と正男氏の存在を隠していたが、正男氏1歳の誕生行事に金主席を招待。金主席が喜ぶ姿をみて、北朝鮮当局者らは正男氏の「皇太子」としての地位を確認した。 84年には高英姫(コヨンヒ)夫人との間に正恩氏が