はじめにわたしの職場に、自他ともに認めるクラシック・マニアがいる。近・現代の作曲家は一通り聴いているというが、中でもお気に入りはスクリャービンで、携帯の着信音とアラームには「神秘和音」が設定してあるくらいだ。 その彼が、最近、急にジャズに興味を持つようになった。なんでも娘さんが部活でサックスを始めたのがきっかけらしい。彼の机には娘さんの小さいころの写真が立てかけてあるが、父親と血がつながっているとは思えないかわいらしさだ。パパだってジャズくらい分かるんだぞ、ということにしたいのかもしれない。 彼はわたしがジャズ・ギターを弾くことを知っている。音楽に関して(だけ)は寛容なので、各種イヴェントの際には有給を消化しても嫌な顔ひとつしない。 ある昼休みの会話「ちょっと私用なんだが」と彼は言った。「こんどの休みは空いてるか? お前の好きなジャズのCDを10枚くらい持ってきてくれ。うちのオーディオで聴