街が目覚めはじめた薄暗い朝、私のスパイ養成機関への旅は始まった。ロンドン中心部のとあるランドマークで連絡相手と落ち合うよう指示されただけで、どこへ向かうのかは知らなかった。車、船、電車と乗り換えながら到着したのは、英国秘密情報局(SISの呼称で知られる海外諜報機関。通称MI6)の情報部員が諜報技術を学ぶ場所だった。どんな施設かは書けない。巨大で殺風景で、身を切る寒風に目が潤んだ、とだけ言っておこう。 ウェーブした金髪のショートヘアの小柄な女性がエントランスに立ち、朗らかに出迎えてくれた。不気味で陰気な建物に不釣り合いなほど明るい笑顔の女性はキャシーと名乗った。世界中で諜報活動にあたるMI6の情報部員や工作員の総責任者だ。キャシーの案内で、道路しか見えない風景を見下ろす大きな窓の横に並んだアームチェアのひとつに座った。 キャシーはMI6に就職が決まったとき、母親から「こんな奇妙でおかしな仕事
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