俺は武骨なぐい飲みに並々と満たした透明な液体を、そろりそろりと口に運ぶ。いや、最後は口の方から待ちきれずに迎えに行く。 それでいて口を付けるその前に、馥郁たるその香りを鼻腔一杯に吸い込まずにはいられない。 深いため息を吐いては息を止め、俺はかすかに黄金色に輝く甘露をちびりと口に入れる。アルコールの揮発と口腔を駆け巡る芳香、そして舌を軽くしびらせながらじんと伝わる米の精を感じながら、別れを惜しみつつ酒精を喉へと送り込む。 日本酒。 アルコール飲料という物が、肉体と精神を麻痺させるだけのためにあるとしたなら、こんなに無駄な物は無い。 これほどの味わいを醸し出す必要がどこにある? 『トーメー、うるせえニャ。飲むなら飲むで、黙って飲むニャ』 『いや、アリスさん。そりゃあ味気ないってもんでっせ。日本酒と神に感謝を捧げねば』 『呑兵衛(のんべえ)のうんちくほど面倒くさい物は無いニャ』 飲まない人からし