自炊をこよなく愛する内科医・生物群による、どこまでもやさしい食エッセイ。忙しない日常のなか、時に自分を甘やかし、許してくれる一皿の話。 大好きな生ライチの季節がまた来ました。 生ライチは、日本では一部の国産高級品を除いてほとんど輸入でしか流通しないのに、果物にうとい私が虎視眈々と狙う季節の果物のひとつです。人が生ライチを食べようとするとき、ひび割れた硬くて乾いたうろこみたいな皮が、指でいとも簡単に剥けて、すぐに舐めるのも間に合わないくらいぷつっと溢れ出した汁が指へ手首へしたたってきます。花とミルクの間のような香りと味が渾然一体になって、果肉はさっと熱湯をかけた海老の身のような見た目で、半透明ではじけるでもなく歯の下でしぼむように潰れ、また花とミルクの香りが広がっていき、ひとつ食べるたびに口と指と手がおぼつかず、うまくいかないときは服やテーブルもどんどん甘い果汁で汚れていく、面倒で甘美な果物