小劇場演劇の中の「母」が気になりだしたのはいつからだろう。 演劇は目の前に人間の身体があるというのが他ジャンルにない特徴だ。だから、魅力的な俳優を見るのが楽しみの一つである。時には2メートルといった至近距離から、彼ら彼女らをどんなにじろじろ見ても怒られない。 俳優たちはもちろん役を演じているが、じっと彼女ら彼らの身体を見ていると、いろんなものが役をはみ出てくる。彼らが演じる「お話」にしてもそうで、表面上のお話の下には別の、様々なお話が隠されており、彼らの身体を通してそれが泡のように浮かび上がってくる。 数年前から、その何重にもなった「お話」の中心に、かなりの割合で「母」がいることに、否応なく気づかされるようになった。ことに男性作家の書いた、家族劇の要素がわずかでもある作品は、ほぼ全部そうだと言ってよい。それは母親という役割の人であったり、他の人物が担う母性であったりする。中には母親という役