− 97 − はじめに 学力低下という文字を紙面で見かけることが増えた昨今、大学の英語授業担当教 員は教材の選択に悩まされ、現代の事柄を扱ったニュース記事や学生が興味を持ち そうな内容を教材とした授業を行うといった傾向が生まれている。こういった状況の 中で、文学に原書で触れてもらいたいと願う教員は文学作品を選択するのに苦労し、 作品が学生のレベルからあまりにもかけ離れてしまった場合には、「文学は難しい」 そして「文学は嫌い」ひいては「英語も嫌い」と考える学生を生み出してしまう可能 性さえある。いわば、中学校・高等学校での学習形態を終えて、大学では文学が奏 でる美しい英語に触れてもらいたいという教員の願いが学生にまったく届かないとい う悲劇がおこるわけである。さらに言えば、英語教育界ではコミュニケーション力を 重視するあまり、文学作品が英語授業から消えつつあると嘆く大学教員も少なくない。