茅ヶ崎市立図書館は、教会と緑地公園が並んだ静かな路地裏にある。 そんなに大きくはないけど、緑がいっぱいあって、窓から陽光がたっぷり降りそそぐ、気持ちのいい佇まいだ。晴れた日曜の昼さがり、利用客でざわめく館内を見渡しながら、僕はふとバカなことを思った。 「もしここにある本をすべて読んだら、僕はとてつもなくエラくなっちゃうんじゃないの?」 小脇にアウトドア料理の本と花村萬月の小説と子どもたちの絵本を抱えながら、以前テレビで見て気になっていたマキャベリの「君主論」に手を伸ばして、僕はふたたびはっとした。 「ていうか、よく考えたら、本を読むというのは、とてつもないことなんじゃないか!大昔からの、世界中の頭のいい人たちが考えた思想や、人生をかけた研究の成果、血塗られた歴史からの教訓、死に直面した人の言葉、天才の苦悩、ありとあらゆる英知を、本を読む、というそれだけで、バカな僕だって自分のモノにできてし